新鉄コーティング直播技術の概要
―従来型の課題を克服:発熱と出芽遅延問題を解決し、コーティング直後播種で一層の省力化―
はじめに
近年、アジア・アフリカ地域では急速な経済成長とそれに伴う農業労働力の不足を背景に、従来の移植栽培よりも省力的な水稲の直播栽培が広く注目されています。
そのような状況下で、アジアではWet seeding(代かき直後に強制排水して催芽種子を播種する方法)が1980年代から普及していますが、その背景には、水を張った水田にイネ種子を播くと浮いて流れ、苗立ちが不安定になるという問題があります。
この浮き苗の課題を解決し、湛水状態での播種(Water seeding)を可能にするのが鉄コーティング直播技術です。
従来型鉄コーティング直播の問題
- 水稲の直播栽培において、2004年に開発された従来法(特許第4441645号)の鉄コーティング種子は重く水に浮かない、農閑期に作り置きできる、鳥害に強い、種子伝染性病害の発生が抑制されるなどのメリットがあります。
- 一方で鉄が酸化して発熱する、コーティング種子同士が固化して塊になりやすい、準備に1週間必要、乾燥して保管するなど、コーティングが面倒であることや出芽に時間がかかるというデメリットがありました。
新型鉄コーティング直播による従来型の問題解決
- 2022年に従来型を改良して、新たな鉄コーティング技術を開発しました(特許第 7092423 号)。
- 鉄に酸化鉄を混合して発熱を調節するとともに、コーティング直後に水中に播種しても崩れない焼石膏を使用しています。
- 従来型では鉄は空気中で酸化固化し、その後乾燥保存して播種していましたが、新型ではさらに、播種後田面水中で酸化し固化するという新しいメカニズムも取り入れています。
- 2023~2025年の実証試験・実用化では新型鉄コーティング(催芽種子)の省力性と出芽の早さを確認しました。
5. 従来型のメリットに新たなメリットが加わっています。しかし、次の点に留意します。
- 従来型が20年の長い実績を持つのに対して、新型は開発後3年と短いため、慎重に導入します。
- 従来型では種子伝染性病害の発生が抑制されていましたが、新型では鉄濃度が低いため低下している可能性があります。必要であれば薬剤や温湯で消毒します。
- 3年間の実証試験では新型でも鳥害は発生していません。実験では鳥害抑制力は鉄濃度または鉄コーティング比を上げることにより高まることを確認していますが、圃場では未確認です。
新型鉄コーティング直播作業の概要(低発熱型の例)
- 水田の準備 代かきは播種前日~3日前
- 種子コーティング
(1) 催芽種子を準備(苗箱播種と同じ)
(2) コーティング資材の準備
①低発熱10%鉄プレミックス資材【鉄資材(10%鉄粉と90%酸化鉄の混合物)と焼石膏を事前に混合したもの】
②仕上げの焼石膏
(3)コーティング作業
①コンクリートミキサーに催芽種子を入れます。1回のコーティングに要する作業時間は15±5分、長引くと種子を傷めます。
コーティングできる種子量は使用するコンクリートミキサーの容量によります(1ha分の種子50㎏)。
小量(10a分5㎏以下)であれば手作業でコーティングできます。
②必要に応じて種子処理剤で処理します(作業時間1分以内)。
ヨーバルシードFS(初期害虫防除)、ルーチンシードDS(いもち病防除)、ルミスパンスFS(ウンカ対策)等
③プレミックス資材を3回に分けて、必要に応じて水をスプレーしながら、投入します(作業時間10分以内)。
④次に仕上げの焼石膏を3回に分けて投入します(作業時間5分以内、水スプレー無し)。
<注意>余った資材はポリ袋に入れて密封保管します。水分があると鉄は酸化して酸化鉄になり、また焼石膏も変質します。
- コーティングと播種日の関係(10%鉄プレミックスの場合)
(1) 省力性、苗立ちの早さと安定性、直播成功率の優劣
直後・当日播種 ≧ 翌日~5日後播種 >> 長期保存後播種 ≧ 従来型鉄コーティング
(2) 直後・当日播種
播種日に合わせて催芽し、コーティング後そのまま播種します。
袋詰めもなく、簡易で省力的、発芽と出芽も確実で早く、初心者や大規模生産者に適します。
生産者が催芽種子と水田を準備しておき、当日朝ドローンオペレーターが訪問して催芽種子を受け取り、コーティング後播種する様子です。
代かき水は落としません。
(3) 翌日~5日後播種
コーティングの翌日~5日後の間に播種するときは網袋や網箱に厚み5~10㎝以下で詰めます。催芽種子は水分を多く含むので、
コーティング当日の夕方一回のみ、種子を軽くかき混ぜ、内部にこもった水分を飛ばします。
その後は播種まで数日間日陰に静置します。播種遅延時に、また作業の融通性を高めるのに役立ちます。
播種がコーティングの翌日~5日後の場合は網袋などに入れて保管します。
左:種子用の網袋 中央:コンバイン収穫用の網袋 右:鉄コーティング種子は網袋の中で酸化し、コーティング当日に比べてさび色になります。
さびの発生程度は鉄資材に含まれる鉄濃度によって決まります。
(4) 長期保存後に播種
播種が5日以上遅れる場合は、広げて風乾(または35℃熱風乾燥)し、保存します。また、従来法と同じようにコーティング種子を数か月前に「作り置き」するときにも使います。従来型に似た作業体系ですが、酸化のための追加の水スプレー作業や発熱問題はなく、仕上がり後の固化問題もありません。出芽も早まります。しかしコーティング層は鉄濃度が低いときは少し弱くなっています。
- 栽培管理 従来法の鉄コーティング種子と同じです。
湛水期間の長い湛水直播(Water seeding with pinpoint flooding)の体系 除草剤1回体系を目指すには整地・代かきを丁寧にして除草剤①を省略し初中期一発剤②を使用します。水による保温効果を利用するので、低温時の播種に適しています。
湛水期間を短くした湛水直播(Water seeding with delayed flooding)の体系。干し気味の水管理でカモ、イネミズゾウムシ、スクミリンゴガイ対策も兼ねます。除草剤1回体系を目指すには除草剤①を省略し中後期除草剤③をメインにします。
- 栽培のポイント:倒伏軽減のため干し気味に管理します。継続湛水は根張りを弱め倒伏につながります。精緻な水管理より、若干手抜き(すなわち、乾いたら水を入れ、雨が降れば放置)の水管理が適します。温暖化ガスの発生を抑制し、地耐力が向上します。
- 栽培目標:除草剤1回使用で移植栽培と同等の収量を目指します。
(ア) 経費削減のため移植並みの除草剤の使用回数(通常1回、雑草が残れば追加)を目指します。耕うんや代かきを丁寧に行い、播種時の除草剤を省略します。出芽揃い期に初中期一発剤②または苗立ち期に中後期剤③を使用し、雑草を抑えきれなかった場合は中後期剤を追加するなどの案を検討します。
(イ) 直播で省力化しても収量減では営農を改善できません。移植と同等の収量を目指すポイントは雑草との競合や穂数確保のため、播種量を5㎏/10aとして苗立ち数100本/m2とすることです。
導入の手順・今後の展望
- 新型鉄コーティング用の資材は、2025年には一部のJAおよび一株式会社から販売されました。栽培技術は従来型鉄コーティング直播と同じであるため、生産者は資材を入手できれば、手持ちの機械で実施できます。新型鉄コーティング用の資材(鉄粉、酸化鉄粉、焼石膏の単体および混合物)を低価格で安定的に供給できる事業体の皆様のご協力を必要としています。
- コーティング法、栽培法(点播、鳥害、防除、施肥、収量、無代かき・乾田直播への適用)、およびサステイナビリティ(減化学肥料、減農薬、水資源、温暖化ガス等)については詳細をマニュアル完全版(ダウンロード可)に記載しています。
- コンプライアンスを遵守し、サステイナビリティを指標に本技術を活用していただくことを目指しています。
- これまでジャンボタニシ、低温、棚田などの課題があり、直播の導入が難しかった水田にも新型鉄コーティング直播は適しています。参考資料:日本作物学会講演要旨集(2024)九州山地中央部の棚田における新たな鉄コーティング種子のドローン散播
- 資材の低価格化を目指しています。参考資料:日本作物学会講演要旨集(2025)新たな鉄コーティング直播技術の汎用性拡大に向けた低コスト資材の有効性検証
- ご質問・要望(栽培、資材、支援等)およびサイト運営者への連絡については、お問合せコーナーをご利用ください。
よくある質問
Q:小規模農家でも相談できますか?
A:もちろん可能です。規模に関わらず、まずはご相談ください
Q:現地対応は全国可能ですか?
A:はい、全国各地に対応しております。
Q:導入したい場合はどうしたらいいですか?
A:まずはお問い合わせください
Q:利用は無料ですか?
A:はい、こちらの技術自体は無料で利用できます。
サイト運営者
山内 稔(ヤマウチ ミノル ) 農学博士
個人事業主(福岡市、水稲直播研究)
従来型および新型鉄コーティング技術(特許第4441645および7092423号)の発明と開発に基づく一次情報の発信を心がけています。研究者情報については科学技術振興機構のデータベースReserchmapをご覧ください。お問い合わせコーナーからお気軽にご連絡ください。














